た。廣い通りなので砂風が吹き、つゆは立つてゐると、小用をもよほして來て苦しかつた。旗屋の前に、大きな荷箱があつたので、そこの横へしやがんで、おばあさんの曲つて行つた路地の方を眺めてゐた。つゆは隨分待つた。一時間も待つた。あんまり寒くて辛いので、旗屋に行つてはばかりを借りた。用をすましてそとへ出て來ても、まだおばあさんの姿はみえない。つゆは泣きさうだつた。風のかげんがだんだん寒くなつてきたし、空模樣が暗く寒々として來た。つゆは、つゝぱつた腰をのばしのばしして、灸點師の家を探して歩いたけれどもそんな家は一軒もなかつた。按摩さんの家が一軒あつたけれども二三人の男の按摩さんがそんなおばあさんは知りませんねと云つてゐた。そこでは灸はやらないのだと云ふのである。つゆは、ここが東京のどの邊にあたるのかもわからないので困つてしまつた。甲斐子が非常時だから大切につかひなさいと云つて金をくれたのを思ひ出して、つゆは何となく悲しくなつてゐた。つゆはいろんなひとにきいてやつと淺草まで戻つて來たけれど慾も得もなく何處かへ坐つてしまひたくなつてゐた。空はもう黄昏れてゐるし、うそさむい風が吹いてゐる。つゆは駒形のか
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