あさんのやうなこんなに貧しい時があつたのだ。このおばあさんはどんなによろこんでくれてゐるだらうかと、つゆは入齒をカチカチ鳴らしながら子供のやうにのんきな食事をした。ミルクホールを出ると、丁度正午のぼおが鳴つてゐた。つゆは灸をすえて、それから安い映畫を觀て、かもじを取つて家へ歸らうと思つた。灸點師の家までは中々の道のりである。コンクリートの廣い道へ出ると、おばあさんは、では、お灸の札を安く割引いて買つて來てあげますからと云つた。何でも、そのおばあさんが灸の札を買ふと、半額位にはなるのださうである。始めてのひとは三圓取られるのださうだけれど、自分が行けば特別に安くして貰つてあげると云ふので、つゆはそんなに澤山の金を持つて來てゐないと云つた。赤ん坊をおぶつたおばあさんは、眼をしよぼしよぼさせながら、一圓五十錢にして貰つてあげますよ、折角ですからしていらつしやい、とてもよく利くあらたかな灸だとすゝめるので、つゆは澁々一圓五十錢を出した。かもじ屋の拂ひが足りないので困つたことだとおもつたけれども、かもじよりも灸の方につゆは魅力があつたし、あらたかな灸をすえてもらつて娘にも自慢をしてみせたいと思つ
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