たりにはアパートや貸間がないので、田舍から出て來た者たちは金の心配や住居の心配ばかり話しあつてゐると云ふことであつた。常次と同じ年頃の甥を、私はもう一人持つてゐるのだけれど、これも横須賀の飛行機製作所の職工になつてゐるのだけれど、今のところ横須賀の百姓家に間借りをして一ヶ月二十八圓の下宿料をとられてゐる。東京でもアパートや貸間が非常に少ない上に、あつても下宿料が高いので、常次は當分私の家から通つて行く事になつた。――朝は五時に起きて、辨當を持つて行く。七時二十分までに會社の門を這入らなければ半日分引かれるので眠いさかりの常次は、朝は四時頃から眼を覺してゐた。三月間だけ日給が五拾錢で、あとは日給が一圓十錢になるのだ。優秀な職工になると、月四五百圓も貰つてゐるのがゐるさうで、常次は會社へ勤め始めてから、非常なはりきりかたである。「俺だつて兵隊に行つたと同じだね」と素朴なことを云つて私たちを笑はせるのだ。私も弟が一人出來たやうに愉しみであり、時々朝早く起きて辨當をつくつてやつた。朝五時と云へば、まだ眞暗で霜柱が立つてゐる。女中を起すのが可哀相なので、前の晩に仕度をしておいてやるのだけれども感
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