私も、食堂のボーイよりもその方がよいと思ひ、二三の軍需工場をまはらせてみた。毎日、仕事を探しに行つて、夕方戻つて來る常次は、たゞ、たまげたものだ、たまげたものだと云つてゐた。何處へ行つても大きな會社ばかりで、明日からすぐ來てくれと云ふのださうである。私は二ツ三ツ選んだなかから、堅實さうな大森の兵器會社を選んでやつたのだけれど、應募した職工の中でも、常次は最年少者なので、何も彼も夢中らしくて、いろいろな話をもたらしてかへつて來る。日給は一圓十錢で、省線の職工パスは割引で驚くほど安い。會社では、地下室で機械の組立があり、時々、地下室でタンタンタン‥‥と試砲を打つ音がきこえる時もあると云つてゐた。山のやうな望遠レンズが製作されてゐたり、タンクが起重機で運び出されてゐたり、田舍出の常次には、まるで戰爭へ行つたやうな驚きであつたのだ。常次は、早く一人前の職工になつて、大砲でも何でも造れるやうな優秀な職工になりたいと希望に燃えてゐた。職工募集の年齡は十八歳から二十五歳までなので晝の休みなんかは、新しい職工の常次の同輩たちは、たいてい日給を、いつから支給されるのか心配をしてゐる樣子で、しかも、大森あ
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