査が來ました。
「おいおい、お前はどこから來たのだ。」
「わたしは汽車に乘って二日がかりでここへ來たのですよ。どこか働くところはないかと思いましてね。」
 巡査は帳面を出してかきつけました。
 龜さんは汗をふきながら答えました。
 そこへ蛙の先生がとほりかかって[#「とほりかかって」はママ]、龜さんを役場まで連れていってくれました。先生は龜さんに同情している樣子です。
「この村のものは、世間のことは何も知らないのですよ。自分たちぐらいえらいものはないとみんな思っているでしょう。田圃に水がはいるころになると、いまに蛙合戰がはじまって、それは大變なことになるンで、わたしはいつもそれがいやで山の奧へ家内と子供を連れて逃げてゆくのです……。」
「ほう、面白いところですね。」
 やっと役場の前へ來ると、蛙の先生はまたおめにかかりましょうとかえってゆきました。
 むっくり、むっくり、龜さんは蛙の役場へはいってゆきました。村長の部屋の前には龜さんのような旅のものが列をして待っていました。日傘を持った尺取り蟲だの、迷子になった小さい子供蛇だの、籠を背負ったもぐらのお婆さん、帽子をかぶった雀の親子もいま
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