バコ入れをしまって、また荷物を首にくくりつけて、むっくり、むっくり、歩きはじめました。
 むっくり、むっくり、むっくり、いくら歩いても同じ道で、じりじりとお陽さまがてりつけるので龜さんはあつくてたまりません。早く水がのみたいと思いました。村の入口へさしかかると、蛙の市がたっていました。いろんな店が出ていました。ほしいものは一つもありません。むっくり、むっくり、市のなかを通りすぎてゆく龜さんをみて、蛙の子供や、蛙の男や女がびっくりしてみちへあつまって來ました。
「役場へ行きたいのだが、どっちへ行ったらいいのかね。」
 龜さんが、きょろきょろしてたずねました。蛙たちは、みすぼらしい龜さんが、荷物を首にくくりつけて歩いてゆくのをみて笑い出しました。
「たいへんなものが來たよ。どっちから來たのかね。――おいおい、早く村じゅうへ戸じまりをよくして、一つでも、ものを盜まれないように用心するようふれてまわんなさい。」
 意地の惡るそうな蛙が大きい聲でいいました。子供たちは走っておうちへかえりました。誰も役場を教えてくれないので、龜さんは途方にくれてそこへつっ立っていました。そこへ子供のしらせで蛙の巡
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