僕の不甲斐《ふがい》なさを彼女に見せつけられたようだ。で、僕はたまらなくなって素足のまま墓場の道へ走って出た。
「馬鹿《ばか》! 俺《おれ》はそんなにしてまで苺なンぞを食いたかないンだよッ! お帰り、帰ったらいいだろう……」
彼女は風呂敷包みを、まるでアンパンか何かのように子供らしく背後に隠《かく》して、しぶとく[#「しぶとく」に傍点]立っていた。そのしぶとさ[#「しぶとさ」に傍点]が余計胸の中に来ると、僕は彼女の髪《かみ》をひきつかんで、まるで、泥魚のように、地べたに引きずって帰って来た。
「君が、こんな一人合点《ひとりがてん》をするから、前の男達も君を殴《なぐ》ったのだろう。僕だって、小刀の一ツも投げたくなるよ。――炭俵《すみだわら》に入れられて、一日|揚板《あげいた》の下へ押《お》し込《こ》められた事があったッて君は云っていた事があったが、前の男の気持ちだって、何だか僕にはだんだん解《わか》って来たよ」
彼女は涙《なみだ》もこぼさないでしおれていた。風呂敷の中からメリンスの鯨帯《くじらおび》と、結婚の時に着ていた胴抜《どうぬ》きの長襦袢《ながじゅばん》が出て来た。
「こんなも
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