さ》からなンだけど、たった四匹よウ。めめず屋の小父《おじ》さんの話ではねえ、ここは昔|沼《ぬま》だったンだからたくさんめめずが居るって云うンだけど、なかなか居ないわア」
「いくらになるンだい?」
「十八銭よオ……」
「おい、十日で十八銭じゃないのかい?」
「着物縫うより、こちらがよっぽどいいわ。土の匂いッてちょっといいわよ。……待っていらっしゃい。今手を洗って行くから……」
 彼女が手を洗って来ると、僕は茶ぶ台の上に五拾銭玉一ツと五銭玉一ツを並べた。
「まア! お腹|空《す》いてンだからあんまりおどかさないでよ」
 そんでも嬉《うれ》しそうであった。彼女は急にせわしそうに、台所に立って行くと、馬穴《バケツ》をさげて井戸端《いどばた》へ水を汲《く》みに出た。茶ぶ台に置かれた空鑵の中には、四匹のみみずが、青く伸《の》びたり紅く縮まったりしている。

 夜。
 雨が降りだしたのか、窓の外の桐の葉がザワザワ鳴っている。彼女は机に凭《もた》れて何か書いている。
「そいでね、その二ノ宮ッて家は、まるで壁ばっかりなんだよ。君だったら何と云うかなア、庭ときたら手入れは行きとどいているが、まるで廃園《は
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