がゆ》をつくりながらこんな事を云った。
「結局、墓場は墓場だけのものさ、別に君の云うほどそんなに美しくもないねえ」
「随分《ずいぶん》あなたは白々《しらじら》としたもの云いをする人だ……そんな事云わぬものだわ」
こうして、背後から彼女の台所姿を見ていると、鼠《ねずみ》のような気がしてならない。だが、彼女は素朴《そぼく》な心から時に、僕にこう云ううた[#「うた」に傍点]をつくって見せる事があった。
[#ここから2字下げ]
帰ってみたら
誰《だれ》も居なかった
ひっそりした障子《しょうじ》を開けると
片脚《かたあし》の鶴《つる》が
一人でくるくる舞《ま》っていた
坐《すわ》るところがないので
私も片脚の鶴と一緒《いっしょ》に
部屋《へや》の中を舞いながら遊ぶのだ。
[#ここで字下げ終わり]
「で、まだ君は心の中が寂《さび》しいとでも云うのかね」
僕は心の中ではこの詩に感服していながら、ちょっとここのところがこざかしい[#「こざかしい」に傍点]と云えば云える腹立たしさで、彼女をジロリと睨《にら》んだ。
「ううん、墓の中の提灯《ちょうちん》を見ていたら、ふとこんな気持ちになったンですよ。…
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