絵本
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)住んでゐた[#「でゐた」は底本では「ゐでた」]。
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 赤い屋根だつたけれど、小さい家にお婆さんがひとりで住んでゐた[#「でゐた」は底本では「ゐでた」]。
 お婆さんは耳も遠いし、眼もかすんで不自由だつたけれど、何かいつも愉しさうだつた。娘の子のつかふやうな針箱をそばに置いて、涼しい処でゐねむりをするので好きだつた。家ぢゆうあけつぱなしなので白い蝶々がお婆さんの鼻さきにまで飛んで来た。初めは何かい喃と、ぢつと眼をこらしてめやに[#「めやに」に傍点]のたまつたまなじりをぱちぱちさせてゐたが、白い蝶々なのだとおもふと、お婆さんは手を宙へあげてひらひらさせてみたりした。蝶々が二匹になつた。手入れのゆきとゞかない庭には、雑草の中に小さい朝顔が咲いてゐたり、えぞ菊の紫色なのがふはふは風にゆれてゐた。お婆さんは庭へ七輪を出して土鍋をかけた。ひとすくひの米に水を入れて、洗ひもせずにかゆ[#「かゆ」に傍点]をたいたが、かゆがたきあがると、涼しい紅葉の根元に、かゆの鍋を置いて蓋を
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