は吃驚したやうな眼をしてゐた。手拭を腰にぶらさげて、息子さんのつんつるてんの飛白を着てゐるせゐか、容子をかまはないひとだけに山男のやうに見えた。
月に三百円はかゝると話してゐられた、大変だなと思つた。
台所が好きだと云ふ洽子さんを見てゐると、私も十一二の頃祖母の家にあづけられて飯を焚いてゐた頃を思い出して、洽子さんのふくらんだ頬が私のおさない時によく似てゐるやうに思へた。
「洽子さん柿の実はもう食べられるでしよ」
「あら、あの柿ねえ、愉しみにしてゐたら、大家さんでみんな持つて行つちやつたのよ。つまンないわ」
その翌る朝、台所の窓から柿の梢を見あげると、青い実一つ残らずみんなもいであつて、柿の木の下には、柿の落葉がいつそうたまつてゐた。
淵子ちやんが何かひとりごと云ひながら、炭俵の縄で柿の枝へブランコを吊つてゐる。おつこちるわよと声をかけると、ねえ、柿の実が天へ飛んでつたンですつて、だから、だからブランコしてもいゝつておかあさまが云つたのよと、小さな手で縄を結んでゐる。私は丘の上にある町の八百屋へ行つて、小さい甘柿を二升位も買つて来て、淵子ちやんのゐる隣家へ少しばかり持たせてやつ
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