子さんと云ふ十四歳の少女の話声だ。
此家族が越して来て間もなく、洽子ちやんと云ふ十二になるお姉ちやんと、ポオちやんが手紙を持つて、夜が更けてから遊びに来た。手紙には大泉黒石と書いてあつた。まあ、そうですか、お父さまもよかつたらいらつしやいなと云ふと、男の子はすぐ檜の垣根をくぐつてお父さんをむかへに行つた。
洽子さんはまるで大人のやうにきちんと坐つて、静かなお家ですねと云つた。私は何だかいぢらしくなつて、ラヂオをかけて、面白いでせうと云つた。丁度アルゝの女の曲で喇叭が綺麗にはいつてゐた。洽子さんは黒と赤のだんだらのジヤケツを着て何時も手を隠してゐる。どらどらおばさまに洽子さんのお手々みせて頂戴と云ふと、可愛い手をそつと出して拡ろげた。その手は可愛かつたけれどもまるで大人のやうに荒れてゐた。洽子さんお台所なさるのと聞くと、御飯焚くわよと云つて、くすりと笑つてみせた。私は大泉黒石と云ふひとにまるで知識がないので、どんなお話をしたものかと考へてゐると、ポオちやんの連れて来た大泉さんは、まるで自分の家へあがるみたいにかんらかんらと笑らつて座敷へあがつて来て、私の母の隣りへ坐つたものだから、母
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