時の間にかなくなつてしまつて、いゝ空地がたちまち出来上がり、子供達は自分より大きい箒で、落葉をはいては火をつけて燃やしてゐた。
夏中空家であつた隣家の庭に、私がねらつてゐた柿の木があつた。無性に実をつけてゐて、青い粉をふいてゐた柿の実が毎日毎日愉しみに台所から眺められたのに、あと二週間もしたら眺められると云ふ頃、七人の子供を引き連れた此家族が越して来たので、私はその柿の実を只うらやましく眺めるより仕方がなかつた。
落葉を燃しながら四番目のポオちやんと云ふ男の子が、お母さま此柿の実は何時頃もいでいゝのとたづねている。脊の低い肥つた子供の母親が、にこにこして柿の木をみあげ、さあ、まだまだ駄目ですよ。こんな青いの食べるとおなかを悪くしますよと云つている。
私も台所をしながら、黒いふ[#「ふ」に傍点]のある柿の実を透かして眺めた。
半かけの雲が落葉といつしよにひらひらするやうな乾いた秋であつた。雨がちつとも降らなかつた。隣家の話声がよく私の仕事部屋へきこえて来た。――もうそろそろ寒くなるのねえ、ほら、お話をするともう私のくち[#「くち」に傍点]から湯気が出るわよお母さま、一番おゝきい澄
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