蛙
林芙美子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)鍋や[#「鍋や」は底本では「銅や」]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ざは/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
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暗い晩で風が吹いてゐました。より江はふと机から頭をもちあげて硝子戸へ顔をくつゝけてみました。暗くて、ざは/\木がゆれてゐるきりで、何だか淋しい晩でした。ときどき西の空で白いやうな稲光りがしてゐます。こんなに暗い晩は、きつとお月様が御病気なのだらうと、より江は兄さんのゐる店の間へ行つてみました。兄さんは帳場の机で宿題の絵を描いてゐました。
「まだ、おツかさん戻らないの?」
「あゝまだだよ。」
「自転車に乗つていつたんでせう?」
「あゝ自転車に乗つて行つたよ。提灯つけて行つたよ。」
より江たちのお母さんは村でたつた一人の産婆さんでした。より江はつまらなさうに、店先へ出て、店に並べてある笊や鍋や[#「鍋や」は底本では「銅や」]、馬穴などを、ひいふうみいよおと数へてみました。戸外では、いつか雨が降り出してゐ
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