強く曲げて逃げようとしました。健ちゃんは空箱《あきばこ》の小さいのへ蛙を入れて、寝床へはいったより江の枕元《まくらもと》へ持って行ってやりました。
より江はその箱を耳につけて、いっとき、ごそごそという蛙のけはい[#「けはい」に傍点]を愉《たの》しんでいました。
お母さんは、まだ何かお仕事のようでしたが、より江は箱を持ったまま小さい鼾《いびき》をたてて眠り始めました。
翌《あく》る朝《あさ》。
夜来《やらい》の雨が霽《は》れて、いいお天気でした。健ちゃんは学校へ行きました。より江は蛙がいなくなったと騒いでいました。戸外では、まぶしい程《ほど》朝陽《あさひ》があたって、青葉は燃えるように光っていました。より江が庭でほうせん花《か》の赤い花をとって遊んでいると、店の土間で自転車を洗っていたお母《かあ》さんが、
「よりちゃんや! よりちゃん一寸《ちょっと》おいで。」
と呼びました。
より江は何かしらとおもって走ってゆきますと、昨夜《ゆうべ》のおじさんが、バナナの籠《かご》をさげて板の間へ腰をかけていました。お母さんはにこにこ笑《わら》って、
「わたしは、まァ、心のうちで泥棒じゃなか
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