よおと数えてみました。戸外では、いつか雨が降り出していて、湿った軒燈《けんとう》に霧のような水しぶきがしていました。兄さんは土間へ降りて硝子戸を閉《し》め、カナキンのカアテンを引きました。より江はさっきから土間の隅《すみ》にある桶《おけ》のところを見ていました。
「健《けん》ちゃん! 蛙《かえる》がいるよ。」
「蛙? どら、どこにいる?」
「ほら、その桶のそばにつくばっているよ。」
「ああ、青蛙《あおがえる》だね。何で這入《はい》って来たのかねえ――こら! 青蛙、なにしに来た?」
 より江は怖《こわ》いので、兄さんの後《あと》にくっついていました。青蛙はきょとんとした眼玉をして、ひくひく胸をふくらませています。ぼんぼんぼん、店の時計が八時を打ちました。より江は時計をみあげて、お母さんはどこまで行ったのかしらと怒ってしまいました。より江は淋《さび》しいので、兄さんが大事にしているハモウニカを借して貰《もら》って、一人で出鱈目《でたらめ》に吹いて遊びました。小学校六年生の健ちゃんはときどき机から顔をあげて、
「よりちゃん、ハモウニカに唾《つば》を溜《た》めちゃ厭《いや》だよ。」
 といいま
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