ら、与平のシャツと着物を取って来た。濡れたものをすっかり土間へぬぎすてて、裸《はだか》で釜の前に来た与平はまるで若い男のような躯つきである。千穂子は炎に反射している与平の裸を見て、誰《だれ》にともなく恥《は》ずかしい思いだった。
「おじいちゃん、風邪ひくで……」
「うん、気持ちがいいンだよ」
与平は乾いた手拭《てぬぐい》で、胸から臍《へそ》へかけてゆっくりこすった。千穂子がかたづく以前から飼《か》っている白猫《しろねこ》が、のっそりと与平の足もとにたたずんでいる。小さい炉《ろ》では、鍋《なべ》から汁《しる》が煮《に》えこぼれていた。与平はシャツを着て、着物を肩《かた》に羽織ると、炉端《ろばた》に上って安坐《あぐら》を組んで煙草《たばこ》を吸った。人が変ったように千穂子が今朝《けさ》戻《もど》って来てからと云うもの、むっつりしている。――今日《きょう》は戻って来るか、明日は戻って来るかと隆吉《りゅうきち》を待つ思いでいながら、いつの間にか半年はたったのだが、隣町《となりまち》の安造《やすぞう》も四日ほど前に戻って来たと云う話を聞いた。すべては与平と相談の上で、何もかも打ちあけて隆吉に許
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