しを乞《こ》うより道はないと、二人の話はきまっているのではあったけれども、与平が何となく重苦しくなっているのを見ると、千穂子はいてもたってもいられない、腫《は》れものにさわるような気持ちだった。千穂子は今は一日が長くて、住み辛《づら》かった。姑《しゅうとめ》の膳《ぜん》をつくって奥《おく》へ持って行くと、姑のまつは薄目《うすめ》を明けたまま眠《ねむ》っていた。枕《まくら》もとへ膳を置き、「おかあさん、ご飯だよ」と呼んでみたけれど、すやすや眠っている。千穂子はかえってほっとして、そこへ膳を置き、炉端へ戻って来た。
「よく眠ってる……」
「うん、そうか、気分がいいんだろ……」
「おじいちゃん、そこに酒ついてますよ」
 炉の隅《すみ》の煉瓦《れんが》の上に、酒のはいった小さい土瓶《どびん》が置いてある。与平は、汚《よご》れたコップを取って波々と濁酒《どぶろく》をついで飲んだ。千穂子は油菜《あぶらな》のおひたしと、汁を大椀《おおわん》に盛《も》ってやりながら、さっき、水の中へはいっていた与平のこころもちを考えていた。死ぬ気持ちであんな事をしていたのではないかと思えた。そんな風に考えて来ると涙《
前へ 次へ
全28ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング