》やかな声がした。千穂子は、太郎たちの事を思い、切なかった。家を飛び出す事も出来なければ、死ぬのも出来ないのも、みんな子供達のためだと思うと、千穂子はどうしようもないのである。頭が混乱してくると、千穂子は、軽い脳貧血のようなめまいを感じた。
食糧《しょくりょう》を風呂敷包《ふろしきづつ》みにして、千円の金を持って千穂子は産院に戻って来たが、赤ん坊はひどい下痢《げり》をしていた。産婆の話によると伊藤さんは他から、器量のいい二つになる赤ん坊を貰ったと云う事であった。千穂子はがっかりしてしまった。産院に千円の金をあずけて、三日目にまた与平のところへ相談に戻って来たが、与平はひどく機嫌《きげん》をそこねて、いっとき口も利《き》かなかった。
「これは運だから仕様がないけど、当分、貰い手がつくまで、あずかってもらっておこうと思うンだけど、一度、おじいちゃんにも聞いてみようと思って……私だって、ただ、ぶらぶらしてるンじゃないンですよ。困っちゃったンだもン」
「昨夜、富佐子が来て、太郎たち引取ってもらいてえと云って来たよ」
「あら、そうですか……もう二ヶ月以上にもなりますからねえ……男の子は手がかか
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