い電気の下で、ぶるぶる震《ふる》える手つきで、飯をぽろぽろこぼしながらまつは食事をしていた。
「おかあさん、起きたの知らなかったンだよ」
 甲斐甲斐《かいがい》しく膳を引きよせて、千穂子は姑の口へ子供へするように飯を食べさせてやった。――隆吉は、千穂子より一つ下で世間で云う姉|女房《にょうぼう》であったが、千穂子は小柄なせいか、年よりは若く見えた。実科女学校を出ると、京成《けいせい》電車の柴又《しばまた》の駅で二年ばかり切符《きっぷ》売りをしたりした事もある。隆吉にかたづく二十五の年まで浮いた事もなく、年をとっても、てんから子供のようななりふり[#「なりふり」に傍点]でいた。
 隆吉との夫婦仲《ふうふなか》は良かった。隆吉は京成電車の車掌《しゃしょう》をしていたが、それも二三年位のもので、あとはずっと、与平に手伝って、百姓をしたり、土地売買のブロオカアのような事をして暮していた。中学を中途でやめた、気性の荒い男だったが、さっぱりした人好きのされる性質で、千穂子よりは二つ三つ老《ふ》けて見えた。背の高い、ひょろひょろしているところが、弱そうに見えたけれど、芯《しん》は丈夫《じょうぶ》で、
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