ろから、子供のないままに、野菜荷をかついで東京の町々へ売りに行って、いまでは小金も少しは貯《た》め込《こ》んでいた。野菜がない時は、静岡《しずおか》まで蜜柑《みかん》を買いに行ったり、信州までリンゴを買いに行ったりした。終戦になってからも、ずっと商売はつづけていた。男の運び屋のように、たくさんの荷を背負っては来なかったが、リンゴも三度に一度は取りあげられると、浮《うか》ぶ瀬《せ》がないので、味噌《みそ》とか、ゴマのようなものを混ぜて買って来ては、結構|利潤《りじゅん》がのぼっていた。
富佐子は久しく、千穂子に逢う事がないので階川の家の様子も判《わか》らなかったけれども、母親の梅《うめ》は、様子の変って来ている千穂子と与平の関係をそれとなく感じている様子だった。与平が怒りっぽい男なので、ただ、そんな話にふれる事をさけているきりであったが、心のうちでは、梅は娘の身の上をひどく案じていた。
千穂子は女の子を産んだ。
肉親の誰一人にも診《み》ててもらうでもなく、辛い難産であった。太郎や光吉の時も、このような苦しみようはしなかったと思うほどな辛さであった。――階川の家には、隆吉と与平の
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