ある。その可愛さがだんだん太々《ふとぶと》しくなり、しまいには食い殺してしまいたい気持ちになるのも酒の沙汰《さた》だけとは云えないのだ……。器量のいい女ではなかったけれども、餅《もち》のようにしんなりした肌をしていた。よく光る眼をしていた。眉《まゆ》は薄く、顔つきもまんまるだったが、茶色の眼だけは美しかった。髪《かみ》も赤っ毛で縮れていた。K町の実科女学校に行っている頃《ころ》、与平は千穂子にたびたび道で出逢《であ》った。ちっとも目立たない娘であった。そうした無関心でいた娘が、隆吉の嫁になって来てから、今日に到《いた》るまでの事を考えると、与平は偶然な運命と云うものを妙なものだと思った。深酒に酔って、しばらくごうごうといびきをたてて眠ると、夜中になって、与平は本能的に何かを求めた。暗がりの中で、まつが眼を覚ましていようといまいと、与平はかまっていられないのだ。考える事と、行動力は別々であった。皮膚《ひふ》を一皮むいてしまいたいような熱っぽい感じなのである。一日一日罪を贖《あがな》ってゆく感じだった。夜になると、千穂子へ対する哀れさ不憫さの愛が頂点に達してゆくのだった。昼間、決断力が強く
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