ゃん、昨夜、おれの寝床へはいりこんで来たよ。寝ぞう悪いンだなあ……」と笑った。四ツになる光吉も片言で、「おじいちゃん、怖《こわ》い夢《ゆめ》みたのかい?」と聞いている。千穂子は子供の前に赧《あか》くなった。与平はぷつっとして子供からそっぽを向いた。――与平も苦しまないはずはないのだ。毎晩、どんな工面《くめん》をしても酒を飲むようになっていた。だけど、酒を飲むと人が変ったように与平は感傷的になり、だらしなくなっていた。酒に酔《よ》って帰った与平に対して、千穂子が怒《おこ》ってぷりぷりしていると、頻《しき》りに頭をこすりつけてあやまるのだ。深酒をした夜など与平の気持ちは乱れて、かっと眼を開いているまつの前でも与平は千穂子に泣くようにしてあやまるのである。与平にとっては、嫁《よめ》の千穂子が不憫で可愛《かわい》くて仕方がないのであった。隆吉に別れている淋《さび》しさが、千穂子との間にだけは、自分の淋しさと同じように通じあった。千穂子も淋しくて仕方がないのだと、まるで、自分の娘《むすめ》を可愛がるようなしぐさで、千穂子の背中をさすり、子守唄《こもりうた》を歌って慰《なぐさ》めてやりたくなるので
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