。りよは外へ出るのが心細い気がして、少しでも火のそばにゐたい気がした。「二百匁ほど買つとくかな……」男はさう云つて、仕事着のポケットから三百円出した。「あら、お買ひにならなくても、私、二百匁位なら差しあげますわ」りよは、急いで百匁袋を二本出して、荷箱の上へ乗せた。「なアに、商売は商売だね。ただ貰ふつてわけにやゆかないよ。――また、このあたりに来たら寄つて行きなさい」「えゝ、もう、そりやア寄らせていたゞきますとも……こゝにお住ひなンぢやございませンのでせう?」りよは狭い小舎の中を見まはした。男は弁当箱をしまふと、木裂《こつぱ》の細かくさゝけたところをはがして、それを妻楊枝にしながら、「こゝに住んでるンだよ。こゝの鉄材の番人兼運送係りつて仕事で、飯だけ近所の姉のところから運んで貰つてるンさ……」さう云つて、男は神棚の下の扉を開けた。押入れのやうなところにベッドが出来てゐて、板壁に山田五十鈴のヱハガキが鋲でとめてあつた。「まア! 便利に出来てゐますのね? 気楽でせうね……」りよは、この男はいくつ位だらうと思つた。
その日からりよは四ツ木へ商売に来るやうになり、この鉄材置場の小舎へ寄ることに
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