々としたさかき[#「さかき」に傍点]が供へてある。窓の下には黒板がぶらさげてあり、穴だらけのゴム長が一足、壁ぎはに置いてある。「この辺がいゝつて聞いたものですから、今朝早く来たンですけどね、一軒きりしか商売がなくて、もう、帰らうかと思つたンですけど、どこかで弁当でもつかはせて貰つて、と思ひましてね、そンなところを探して歩いてゐたンです……」「弁当はこゝでつかつて行けばいゝさ……商売つてものは、その日の運不運でね、もう少し、家のこんでるところでもまはれば、案外、またいゝ商売もあるかもしンねえよ」男は、歪んだ本箱のやうな棚から、黄いろくべとついた新聞包みを出して鮭の切身を出すと、やかん[#「やかん」に傍点]をおろして鉄棒の渡しへ乗せた。香ばしい匂ひがした。「さア、その腰掛へかけて、ゆつくり弁当をつかつたらどうだね……」りよは立つて、リュックから弁当箱の風呂敷包みを出して、腰をかけた。「何の商売も楽ぢやアねえな、静岡の茶つて云ふのは、百匁いくら位するンだい?」男は手で鮭をひつくり返した。「売りは百二三十円つてとこなンですけど、屑も出ますし、高くしちやア仲々売れませンしね……」「さうさなア、年
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