薪を燃やして、鉄棒の渡しをかけた上に大きいやかん[#「やかん」に傍点]が乗つかつてゐた。「お茶?」「はい、静岡のお茶なンですけどねえ……」りよは、微笑しながら、さつさとリュックを降ろしかけた。鉢巻の男は何も云はないで、土間の腰掛に行つた。りよは、勢よく燃える火に、ほんのしばらくでもあたらせて貰ひたかつたので、「随分、歩いたンですけど、とつても寒くて……少し、あたらせて下さいませんでせうか?」とおづおづと云つてみた。「あゝいゝとも、そこンとこ閉めて、あたつて行きな」男は股の中へ小さい腰掛をはさみかけてゐたが、その腰掛をりよの方へやつて、自分はぐらぐらする荷箱の方へ腰をかけた。
りよはリュックを土間の片隅に降ろして、遠慮さうに蹲踞《しやが》んで、火のそばへ手をかざすと、「その腰掛へかけなよ」男は顎でしやくるやうに云つて、炎の向うにほてつてゐるりよを見た。なりふりかまはないかつかうではあつたが、案外色白い器量のいゝ女であつたので、「お前さん、行商に歩いてゐるのかい?」と訊いた。
やかん[#「やかん」に傍点]の湯がちいんと鳴り出した。
煤けた天井に、いやに大きい神棚がとりつけてあつて、青
前へ
次へ
全25ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング