‥」
「どうして?」
「始終、うちをあけて、お父さんは女中のつくつたものばかり食べてるぢやありませんか‥‥」
「うちをあけてるつて、そりやア何かと用事があるのよ、私がこんなにうちをあけなきやならないのも、パパに一半の責任があるわ‥‥」
「何か知らないが、僕は女の出歩くの厭だな。わけのわからん層のひくい女達は、母さん達をうらやましがるか知れないけど、僕は厭だな‥‥お母さんの寫眞が出てると、寒々しいものを感じますよ‥‥」
たか子は、瞠つてゐた眼をあけてゐられなかつた。涙がすぐ溢れて來た。涙弱くなつてゐる母親を見ると、俊助は吃驚して半巾を母親の手へ握らした。
「あんたまで、そんなことを云つて、このママをふんづけてしまふのね。女つて云ふものは良人や子供の臺石にならなきやならないの?」
子供の半巾を脣へ持つて行くと、不圖、昔、徹男とドライヴした時の革のやうな匂ひがする。
(おお厭だ。この息子まで男臭くなつてゐる‥‥)
たか子は身震ひして半巾を俊助へ投げかへした。
「まア、あなた、このハンカチ何日洗はないのよ?」
「母さん洗つてくれたらいいぢやありませんか‥‥」
「まア、あんなこと云つて、厭
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