なひとねえ」
冬の休みも濟んで、また夏が來て、秋になつた。たか子の外出は依然としてかはらない。今日も、遲くなつて歸つて來たのだ。
「星を眺めるつて、久しぶりだわ‥‥」
久しぶりなのは、夫婦がかうして向きあふことも久しぶりなのだつた。
「ねえ、あんたの怒りんぼにも私負けてしまふわ。私、いま、何もないのですもの‥‥もう憤らないで頂戴‥‥」
「憤つてやしないよ。だが俺の方がもう、我慢が出來なくなつたよ。俺はお前と別居をしたくなつたンだがねえ、どうだらう?」
「別居つて、別れきりなの?」
「ああ、但し籍の方なら當分置いておいていいよ‥‥俊助も孝助も分別がついて來てゐるのだし、俺達の不思議な氣持ちも軈て判るだらうとおもつてゐる。俺は、こんな空疎な生活なンて大きらひだツ」
たか子は默つてゐた。
堂助は、たか子と別れて、田舍者の女と結婚して、勉強したいと云つた。まだ相手はみつかつてはゐないが、不幸な女があつたら、結婚するかも知れない。籍も貰ふかも知れない、だがそれはもしかの事だと云ふ。
いまは孤獨になつて勉強したいきりだとも云ふのであつた。
「あなたは、私が、自殺でもしなければ許しては
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