「なりあがり」に傍点]者みたいなお家ですもの‥‥どつちもお金があるだらうと探ぐりあひで結婚したのよ」
などと、えげつない事も云つた。そんなことを云つたあとは穴の中へ墜ちたやうに淋しかつたが、
(あのひと、あんな意地惡してるンだもの、仕方がないわ‥‥)
と自分を可哀想におもつたりして自分をかばふ氣持だつた。
鏡の前に坐つても、自分の顏が妙にとげとげしてゐる。いつかも、高等學校にゐる俊助が冬の休みに歸つて來て、
「ねえ、お母さんは、僕にどんな風な結婚をさせたいと思ひます?」
と訊いた。
何時も、ママ、パパで育つた子供が、何時の間にか、自分を「お母さん」と呼ぶやうになつてゐる。
「ママ? そりやア、見合結婚だわ。それを、ママ、望んで、よ‥‥」
「やつぱりさうですかねえ‥‥」
「何? あなた好きな方でもあるの?」
「好きな娘の一人や二人はありますよ。だけと、見合結婚も一寸困るなア‥‥」
「パパ、何て云つて?」
「女なんか、どんなのでもいいから、田舍の素朴さうなのを選んで來いつて云ひましたよ‥‥」
「まア、厭なパパ!」
「だつて、お父さんだつて、お母さんのやうな奧さんは一寸困るでせう‥
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