キなンだよ。ぬけがら[#「ぬけがら」に傍点]のやうな女房も困る‥‥。だが、別れはしないよ。別れても別れなくつても、この波は何とかして靜まつてゆくだらう‥‥。だが、今日から、お前はお前で勝手にふるまつてくれ、俺は俺で勝手にする‥‥」
堂助が、俺は俺で勝手にすると云つてから丁度二年經つた。堂助が云つた通り、たか子達は夫婦らしい生活をしたこともなく、夏の旅も冬の旅も一度も一緒ではなかつた。
たか子は、良人から離れてしまふと、段々、名流婦人になつて行つた。結城の家へ來る手紙も大半はたか子のものであり、今日は何の會、明日は何の座談會と、太つたたか子夫人の出ない會はない位になつた。月々の婦人雜誌を見ると、かならずどの頁かにたか子夫人の寫眞が載つてゐた。
輕井澤の別莊には毎年俊助と孝助が行くやうになり、輕井澤には堂助もたか子もふつと行かなかつた。――時々、仲のいい徹男夫婦のことを人づてに聞くと、たか子は人がかはつたやうに、若夫婦の惡口を云つたりした。
「あそこのお宅は此頃火の車で大變なのよ。久賀さんのお家だつて小華族だし、佐々さんのお家だつて、ああして山かんで博士になつた、なりあがり[#
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