い紋服のたか子は、ハンカチを頬にあててさめざめと泣くのであつた。


 軈て、宴が始まり、各※[#二の字点、1−2−22]名前の書いてある席に著いた。偶然なのか、たか子の席は花聟花嫁が筋向うに見える、メン・テーブルから二側目の席だつた。ボーイが白葡萄酒をついでまはつた。たか子はボーイの白い服のかげから、そつと、徹男の方へ眼を向けたが、徹男もたか子の席の方へ何氣なく眼を向けてゐた。宙で二人の眼が逢つたが、徹男は微笑に似た表情で、そつと、たか子の眼をはぐらかして行つた。
 たか子は手先きが莫迦々々しいほど震へてフオークを持つことも出來なかつた。
(いつたい誰の結婚式なのだらう‥‥私が立ちあがつて正直なことを云へば、この結婚式はくものこを散すやうにみぢん[#「みぢん」に傍点]にする事も出來るのだわ‥‥)
 たか子は震へながらそんな事を考へてゐた。座にゐるのが辛らかつた。祝ひの言葉も半ばすすみ、酒で、宴がなごやかになつてゆくにつれ、たか子は叫び出したいやうな妬ましさで心が痛んだ。
「氣分が惡いのぢやないか、おい、中座したらどうだ?」
 堂助が、震へてゐるたか子の右腕を取つて立ちあがつた。堂助に
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