い氣持ちだつた。
溟心共に消えてしまつて、霧散さしてくれと云つたのはこんな事だつたのかと、たか子は齒ぎしりするやうな佗しさだつた。
久賀夫人が、娘の結婚を、こんなにぎりぎりになつてから通知してくれたのも、徹男のこころあつての事ぢやないかと、たか子はきりきりした。
「お前、結婚式に出られるかい?」
と堂助が意味あり氣に尋ねた。たか子はわざと吃驚した顏をみせて、
「二人に招待が來てるぢやありませんか、行きますよ、行かないぢや惡いでせう?」
たか子は平氣ですよ、何でもないンですものと云つた強氣をみせてゐた。――堂助とたか子は二人とも紋服姿で披露宴のある東京會館へ自動車を走らせたが、堂助の後から自動車を降り立つたたか子は、激しい動悸と吐氣がして來て、氣持が据らなかつた。
花嫁の登美子は、地につきさうな振袖姿で、高島田の髮も初々しい。帶は白しゆちん[#「しゆちん」に傍点]の龍の模樣で、登美子の柔らかさうな躯を、何か守つてゐるやうな高雅さに見せてゐた。集つてゐる者は誰も彼も美しい夫婦だと讚めてゐる。
徹男も紋服姿で、深い陰のある眼が暫く見ないうちに、益※[#二の字点、1−2−22]艷を
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