な向うから、閉め出しだと云ふ報告。その上、五郎という厄介な子供を抱へてゐては、宛然、もう水の上の捨て小舟。といつて、その二、三の友人すら、現在のやうな世の中では、自身の体のなりゆきに、肝胆を砕いてゐるのがせいいつぱいである。
「旦那!」
専造はふつと身を引いた。
ぴたつと汗臭い人間が寄り添つて来たからだ。
休暇にはいつてゐる大学の構内はこの真昼間、あまり人通りもなく森閑としてゐる。
「旦那!」
「僕のことかい!」
「どうです? 煙草は要りませんかね?」
あわてて胸の釦をしめた。眼の前に、にゆつと、オレンヂ色の「光」の箱が二つ。
専造は赧くなつて「いくらなの?」と、尋ねてみる。
「拾三円」
「さア、一箱の金もないな」
「ぢやア、五本、どうです?」
すでに、箱を開きかけてゐる。男の小指の爪が馬鹿に長い。頭は砂利禿げで並んでみるといやに背がひくい。
ポケツトを探して、六円五十銭よれよれの札をあはせて出すと、可愛いチヨークのやうな光が五本、男はそのまま正門の方へ歩いてゆく。
五郎は何を躊躇してゐるンだ。また時計を見る。時計の汚れた硝子に、銀杏の緑が滴つてゐる。
あいつ、萎れき
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