ると、私はすぐカーテンの隙間から、ホームに歩いて行く元気のいゝお婆さんの後姿を見てゐました。パリーへ来るまで……来てまでも、私は沢山の深切なゆきずりのひとを知りました、何しても報いられないのですが、そのまゝお互ひがお互ひを忘れて行くのでせうか。……
駅のロシヤ風の木柵の傍には、満人の兵隊とアメリカの記者団が何か笑ひながら握手してゐました。――どうしたせゐか、一望の端に見えるシベリヤの空が、ひどく東洋風なので満人の人達の方の顔が何だかしつかりとして見えました。――でもいづれの国も虎を背負つてゐるかたちかも知れない。……
マンジウリに着いたのがお昼です。露満の国境です。まだ雪は降つてゐません。珍らしく日本風な太陽が輝いてゐました。日本風な――笑ひますか、こんな言葉も一脈のノスタルジヤでせう。……こゝでは大毎の清水氏や、ビュウローの日本のひとが出てくれました。二人ともいゝ方でした。――安東を出てから二度目の税関です。荷物を税関に運んで、調べて貰ふ間にパスポートにスタンプを押して貰ひました。ガランとした税関の高い壁上には、大きなシベリヤ地図が描いてありました。一寸田舎の小学校の雨天体操場
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