ます。此ボーイは次の駅で降りてしまふので、床をのべに来る時、持つて来た紅茶の下皿に拾銭玉一ツ入れてやりました。やらなくてもいゝと聞きましたが、大変丁寧なので、やりたくなります。
四人寝の寝台が私一人でした。心細い気もありましたが、鍵をかつて寝ちまふ事だと電気を消さうと頭の上を見ますと、私の寝室番号が何と十三です。それにハルピンに着くのが明日の十三日、私は何だか厭な気持ちがして、母が持たしてくれた金光さまの洗米なんかを食べてみたりしたものです。迷信家だなんて笑ひますか、今だにあの子供のやうな気持ちを私はなつかしく思ふのですが……。十三日の朝八時頃、何事もなくハルピンに着きました。折悪しく私の列車は、貨物列車の間に這入つて行つたので、北満ホテルのポーターに見つかりもせず、とてもの事に一人で行つてしまへと、四ツのトランクをロシヤ人の赤帽にたのんで、兎に角駅の前まで運んで貰ひました。――冬のハルピンは夏より好きです。やつぱり寒い国の風景は寒い時に限ります。空気がハリハリと硝子のやうでいゝ気持ちでした。
「ヤポンスキーホテル・ホクマン」
これだけでロシヤ人の運転手に通じるのですから剛気なもの
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