せると、さうだと云つて、又、皆に説明するのです。何の事はない信州路行く汽車の三等と少しも変りがありません。――十八日の夜。オムスクと云ふ所から、赤ん坊を連れた女が部屋に乗りました。うらなりみたいな若いお母さんでしたが、此子供はまるで人形です。人見知りしないで、すぐ私のベッドへ来て、キャッキャッと喜んでゐました。ワ―リャと云ふ子です。此ワーリャは可愛かつたのですが、ワーリャの母親は、一々物を呉れ呉れと云つて嫌でした。私は、三日月と云ふ日本の安い眉墨を持つてゐたのですが、「お前はパリーへ行けば買へるんだから、それを呉れ」と云ふのです。外の者ならパリーにもあるでせうが、娘の頃から使ひつけてゐるもので、何としてもやる訳にゆかず、「あんたの髪の毛はブロンドぢやないか、眉だけは真黒いのをつけてをかしいよ、ホラ私の髪の毛と眉は黒いから、これをつけるのだ」さう何度云ひ聞かしても、如何にも舌打ちして欲しいげなのです。恨みがかゝつてはおそろしいと、半分引き破つて呉れてしまひました。
日本では舌を鳴らすと、チエッとか何とかの嫌な意味ですが、ロシヤでは、ホーウとか何とか、いゝ場合の意味らしい。――ワーリャは
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