してひつそりしてゐました。
いよいよソヴェートロシヤ領です。
青い空に真赤な旗が新鮮でした。赤い貨車が走つてゐる。杳々とした野が続いて、まるで陸の海です。私はロシヤへ這入つてから二拾円だけルーブルに換へました。列車の中に国立銀行員が鞄を持つてやつて来ます。国立銀行員だなんて云つても、よぼよぼの電気の集金人みたいな人でした。印刷したてらしいホヤホヤのルーブル紙幣を貰つたのですが、まるで、煙草のレッテルみたいで、麦の束が描いてありました。その紙幣を九枚に小銭を少し、丁度四拾銭程換算賃をとられました。夕方、時計は七時ですが、明るい内にハラノルへ着きました。小駅で、発車を知らせるのに小さい鐘を鳴らしてゐました。ところで、まづ、私の寝室をこゝに書きませう。一室に四人づつで、一ツ列車に八ツ室があります。私は、一等も二等も覗いて見ましたけれど、シベリヤを行かれる方には三等をお薦めしたいと思ひます。けつして住み悪くはありませんでした。初め、列車ボーイに、日本金の参円もやればいゝと聞いてゐました。つまり日が五拾銭の割でせうが、私は何を考へ事をしてゐたのか、思はず五円もやつてしまひました。大変気前のい
前へ
次へ
全22ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング