た箪笥をがたぴし開けてみました。母親の大事なものは何でもこの中へ入っているのをむつは知っていました。箪笥には長持ちのような引出しが三ツついていました。一番上の引出しには、亡くなった父親の寫眞だの、父親が一二度しかはかなかった男下駄が新聞に包んで入っていました。むつの下駄も入っていました。
二番目の引出しには、太郎のゆかたやぼろ切れが入っていました。三番目の引出しには、空いた菓子箱や、こうもり傘などが入れてありました。むつは腹がへっていたので、箪笥の中へ何も食いものがないとがっかりしてしまいました。「ええいまいましい!」
むつは、大人たちのまねをしました。いろりの火は燃えるだけ燃えると、もう白い灰になってしまって森閑としています。むつは鍋へ手をさしこんでみました。湯は風呂みたいな熱さでした。むつは腹がたってしまって、また土間へ降りて行き、こんどは桑の根っこの大きい奴を熊の首のようだぞとひとりごとを言いながら引きずって來ていろりの中へいれました。白い灰が飛び立ちました。まだ火がのこっていたのか、新らしくほうり入れた乾いた桑の根はすぐくすぶり始めました。むつは腹這いになって、ふうっと火を
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