中のようにもくもく動いて見えるのです。もぐらの大合戰だぞと、むつは、風に動く畑や森を見てそんなことを考えました。今夜は蕎麥の粉を貰って來てやると、母さんが云ったけれど、蕎麥の粉をかいて、黒砂糖をまぶして食べたらうまいなと、むつは徑の上にうつる自分の白い大入道と一緒に、土ぼこりをけたてて歸って來ました。
 太郎はまだ眠っていました。鼻汁が固くなって、鼻の穴で青い泡を吹いています。むつは太郎へ煮え湯をかけて殺してしまおうかと思いました。遠い昔、母親がかにを買って來て煮え湯へほうりこんだのだが、すぐ水色の蟹がいんにく[#「いんにく」に傍点]のように朱くなってしまいました。太郎も煮え湯へほうりこんだら、かにのように美しい子になるだろう。そうして、臭くて青い色をした鼻汁なんか、とけてなくなってしまうだろう。むつは土間から乾いた桑の根っこをかかえて來ました。桑の根っこをいろり[#「いろり」に傍点]にくべて、マッチをすって投げ込むと、桑の根はからからに乾いているのですぐ強い炎をあげはじめました。横の川へ行って、鐵鍋にいっぱい水を汲んで自在鍵にそれを吊しました。湯が沸く間に、むつは部屋の隅にある古ぼけ
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