内先生は神樣に違いないはずだのに、木内先生はむつ達がドタンバタンと開けひろげて入る臭い便所にも入って行きました。あんなにきれいな先生が、どうしてむつ達の入る便所へ入るのか判りませんでした。また、木内先生は、むつ達と一緒に晝御飯を食べるのでしたけれども、むつ達と同じように梅干がたびたびついているのです。むつは顏をあげて、木内先生の口もとをじっと視ているのです。あの梅干は金の梅干かも知れないと思いました。
木内先生はオルガンを彈く事が上手であったし、男の先生たちから大變好かれていて、男の先生達は大掃除の日に、むつ達の掃除をしている運動場でこんなことを云っていました。
「ヴィナスだね。」
「ヴィナスとは何だね。」
「愛の神樣だよ。」
「處女なのか?」
「それは愛の神樣だもの判らないよ、處女じゃないかも知れないよ。」
「木内先生は處女だよ。」
「それはそうだろうね……。」
むつは、木内先生を神樣だとききましたのでびっくりしました。
組の子供たちに、木内先生は神樣だよと教えてやりました。子供達は、
「神樣と云うと八幡樣だね。」
「いゝや、いなり[#「いなり」に傍点]さんだよ。」
「木内先生
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