もなくむつへいろいろなことを尋ねるのですが、むつは何を問われても知らぬと言いました。
「まさか、教會の先生が縛ってほうりこんだンじゃあるめえな。」
 と、異人の宗旨を嫌っている疊屋の親爺がこんなことを言いました。するとむつは、教會の先生を惡く云われたことに腹がたってしまって、天狗のようなおじさんが走っているのを見たら、ついて行きたくなったのだと言いました。その天狗のようなひとについて行ってどうしたとたずねられると、もうその先は判らないと言うのです。戸口ががやがやすると、駐在所の巡査と、木内先生が土間へ入って來ました。木内先生はメリンスの帶をおたいこ[#「おたいこ」に傍点]にしめていました。むつの枕元に坐ると、
「どっこも痛くないの?」
 とききました。むつは赤くなりました。先生にうそを言うことだけは神樣をあざむくようで、先生の眼を見ることが出來ませんでした。此一二年、村には變な人間も入りこまないのだし、これは神隱しのたぐいなのだろうと村の人達は言いあいました。むつはむつで、自分もそう思い始めました。――村中はむつの話でまたたくまにシゲキされてゆきました。
 その翌日、むつが入っていたく
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