體がふるえて仕方がないのです。母さんは怒っているだろうなと思いました。
やがて、近くの鷄小舍がちょっと騷がしくなると、竹やぶの中へさくさく歩いて來る者がありました。一人の足音ではないようなのです。二人も三人も、四人も、もしかしたら四五十人も竹やぶへ入って來ているのではないかと思う程、がやがやと人間の聲と足音がします。むつは固くなって息をひそめました。山賊が來たのだろうと思いました。晝間あんないたずらをしたから、エス樣が魔物をよこしたのかも知れないと思いました。
「どうぞお許し下さい。もう、あんなことはしませんから、お許し下さい。」
むつはそんなことを祈りました。その行列は何だか灯をつけているようなのです。がやがや言いながら、行きすぎてしまいましたが、しばらくすると、また二三人の足音がして、ふと、むつの風呂桶の前で止りました。むつは眼を固くとじて死んだまねをしていました。死んだまねをしていたら大丈夫だと思ったのでしょう。天井をはぐる音がして、ちょうちんの灯が風呂桶をのぞきこみました。
「おーい、いたぞオ!」
「おかアやア! むつはいたぞオ。」
むつはびっくりしてしまいました。足先が
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