魔物が、とりつくのだからだろうとむつは思いました。
日曜學校は十疊位の廣さしかない百姓家で、牧師さんは眉毛の長いお爺さんでした。いつも荒地に草花を造っていました。夾竹桃の小さい木も植わっていました。ダリアだの虞美人草だのジギタリスだの植わっていました。土地がやせているので花がみんな小さいのです。教會の先生は町へ行ったのかいませんでした。教會の裏は竹やぶになっていて、鷄小舍のこわれたのや、漬物桶のくさったのや、朽ちた材木などが散らかっていました。竹やぶの中にはしめった風がいっぱいこもっていました。遠くの櫻の木では、若い蝉の聲がジイときこえます。竹やぶの中へ入って行くと、古い竹の皮がたくさんとげとげの草の中へ落ちていました。むつは竹の皮をひろって、町の牛肉屋へ買って貰おうかと思いました。いくらになるのか見當もつきませんでしたが、一錢玉が山のように來るような氣がしました。だけど、落ちている竹の皮は、みんなくさりかけていました。
「仕方がない。」
そう思って竹やぶを向うがわへ出て行きますと、朽ちてぼろぼろになった風呂桶がありました。むつはその風呂桶を見ると、自分の父親の亡くなった日を思い浮
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