だかこわかったなあ‥‥」
 繁野君の話です。
「それでねえ、おかあさんが、パンを一つやったの、おとうさんやおかあさんは、どうしたのって聞くと、浅草で黒こげになって死んぢゃったっていうの‥‥ほんとうかなア」
 繁野君は、いかにも、その子どものことがふしぎそうなのです。僕はラジオだの、話にきくけれど、まだそんな子どもをみたことがありません。
 そのつぎは、金井君の話です。
「僕はねえ、このあいだ、新宿へ行ったら、よそのおばあさんが、お金入を落したって泣いているのを見たよ。人が三四人たかっていろいろきいているけれど、おばあさんは、何処で落したかわからないんだって、三百円も落したっていうんだろう。甲府へかえるのに、切符も落したんだって‥‥汽車ちんがなければ、甲府へかえれないっていうんでメガネをかけたおばさんが、そのおばあさんに十円めぐんでいたのさ。そしたら、赤い鞄をさげた男の人が二十円おばあさんにくれたんだ。僕何だかはずかしかったけれど、本を買うお金を持っていたから、五円だけ出しておばあさんにやっちゃった。おばあさんはみんなにぺこぺこおじぎをしてるのさ。――僕がお金を出したら、また、あとで、お
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