ってもいいと思ってるんです‥‥」
「だけど、何とか出来ないかねえ。昔は苦学した人さえたくさんあったんだよ。まあ、昔といまとはちがうかもしれないけれど、何とか出来ないかね」
 おとうさんは、岩にかじりついても学校だけは出た方がいいといってききません。
 要さんもかんがえが変つたのか、はればれした顔つきで、
「じゃあ、もういっぺん、よく考えて何とかやってみます」
 といいました。
 僕だってそう思います。食物をどんなにつめてもいいから勉強だけは一生懸命しようと思いました。
 学問を尊敬しない国はほろびてしまうと、おとうさんはよくいいます。
 要さんはその晩、僕のうちにとまりました。久しぶりに家らしい家に来て気持がいいといっています。僕は要さんと一しょにやすみました。
「おうちで、君に学校をやめた方がいいっていわないのに、要君だけの考えでやめたりしては、第一姉さんに対してもすまない。学校だけは出ておいた方がいいね」
 要さんは、はいはいと返事をしていました。
 僕も、学校は好きです。第一、たくさんの友達と別れてしまうことなんて出来ません。疎開からもどって来た友達に、東京の空襲の話をしながら、
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