気にしています。
「大丈夫だよ。僕たちでがんばれば、おとうさんだって殺すことをあきらめてしまうさ――」
「そうかしら、でも、鶏って、人間に食べられるために生れてるみたいでかわいそうね――何も知らないで、土をほじくってるのをみると哀れになるわ」
 養鶏場みたいに、たくさんかえばそうでもないのだろうけれど、たった一羽だから哀れになるのかも知れません。
 朝夕は、とても涼しくなりました。金井君は時時やって来ます。
 今日もお昼から勉強に来ます。
 僕は、去年の空襲のことを考えると、何だか、今年はのんびりしていて、あわてないで勉強が出来るのがうれしいです。

     18[#「18」は縦中横]

 金井君がおみやげに金魚を一ぴき買って来ました。とても尾ひれのひらいた、頭でっかちの金魚です。
「これはね、らんちゅうというんだよ。昔はとてもはやったものだって‥‥一びき何百円もするのがあったんだって」
 頭の上にこぶが出ていて、女のスカートのようにひらいた尻尾が、水の中で、そっとひらいたりつぼんだり消えかけたりしています。
 そのうち、金魚の歌をつくろうと思いました。
 金井君はどうようみたいなも
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