たった一羽になり、大きくつくった鶏小舎が、何だか広くなってさびしそうだったのを和歌にしました。
おとうさんは、和歌というものは、きどっては駄目だとおっしゃいました。なんでも思うままに正直に書くのがいいのだそうです。秋になったら、おとうさんがまたおとぎばなしをして下さるそうです。
おとうさんは、このごろ近所の商業学校の夜学へ数学をおしえに行かれるようになりました。おかあさんは、四五日前から起きられるようになりました。となりの本田さんのおばさんにもずいぶんお世話になったので、そのうち鶏でもつぶしたら、お礼に半分あげるのだとおとうさんがいっていましたけれど、僕は、何だか、自分の家でかっていた鶏を殺す気にはなれません。
鶏は何も知らないで、こっこ、こっこと庭に遊んでいます。この夏はあまり暑かったので卵も生みません。でも、今年は豊年がたの暑さだというので何だかぱあっと明るい気がします。おとうさんが、楽あれば苦あり、苦あれば楽ありとおっしゃったことが思いあたるようで、豊年で、お米がたくさん出来るといいなと思いました。
「うちのこっこちゃん、殺されるのいやね」
静子がさびしそうにして、とても
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