17[#「17」は縦中横]

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わが庭に、鶏ついばめり、鶏小舎は
ひろびろとしてさびしそうなり

かわきたる洗たくものをとりいれて
夕やけ雲に口笛吹きぬ

八丈島たいふうありとラジオいう
雨戸をしめて雨の音きく

靴の底陽に干しながらオルガンの
ラジオをきけば平和なりけり
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 長い夏休みのあいだぢゅう、僕たちはおかあさんの看病をしました。おかあさんはぐんぐんよくなりました。僕は時時、和歌をつくりました。和歌なんてむずかしいと思っていたけれど、案外面白いので、おとうさんにみてもらいます。
 おとうさんも僕と同じように、時時歌をつくります。おとうさんのはむずかしくてよく判りませんけれど、おとうさんは気持のいい声をたててろうどくします。

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吾子の声にぎやかにくるこの朝の
眼ざめのかなしみふき消す如く
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 おとうさんの歌です。
 静子も歌をつくりたいといいますけれど、静子はなかなか出来ないとこぼしています。
 はじめ、宇都宮からもらった鶏は二羽いたのですけれど、野良犬にとられてしまって、
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