、
「とてもいいのよ。でも、まだ起きるのはたいぎだけど、みんなが元気だから寝ていても、みんなの声をきいていてたのしいのよ」
とおっしゃいました。
どこかで蛙がないています。おとうさんはもう、うとうとしています。
台所では静子が茶わんを洗いながら、
「ねえ、おとうさまって、とても台所はうまいなんてうそよ。だって、うなぎのきもを焼くのだって、とっときの炭をじゃんじゃんつかっているし、お醤油だってジャブジャブつかって、これぢゃ大変なことになってしまうわ。おかあさまは、とても大切になんでもおつかいになっているのに、パンだって、ほんとうは、今夜のは量が多すぎるのよ。わたしだまってたけど明日からわたしがしようと思うの。それに、おとうさまったらすぐつかれておしまいになるんだもの‥‥」
「でも、うまかったねえ」
「ええ、だって材料のありったけつかうんですもの、これぢゃあ誰だってできるわ」
静子は醤油ビンを出して、電気にすかしてみています。静子のやつ、けちだなあって思ったけれど、僕はだまって、醤油ビンをみていました。
赤い水がビンの中で光っていて、きれいです。もういくらもありませんでした。
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