あかくしていたあの子のかっこうをなつかしくおもいました。
明日は、ながいこと兵隊に行っておいでになった及川先生のかんげい会があるのです。
先生は僕たちが大きくなっているのをどんなに驚かれるでしょう。及川先生はいい先生です。一年生の時から三年生までうけもってもらった先生です。
僕は、八王子にかえったあの子のことや、復員して来られた及川先生のことを考えました。
「ずいぶん、いろいろな身の上の人があるんですね、おとうさん」
おとうさんは「そうだね」とおっしゃってしばらく天井をじっとにらんでいました。
「健坊も、もう、そろそろむずかしい本を読んでもいいね」
おとうさんがそういいます。
「どんな本ですか」
「そうだね、ホワイトファングというのはどうだろうね、犬の物語を書いた小説でね、山の中の狼が、だんだん人間の世の中に出て来て、おしまいにはおとなしい犬になるという物語なんだよ。これと同じもので、逆に、犬から、狼になってゆく、野性のよびごえというのもあるがね、おとうさんが探して来てあげようね」
僕は、動物の小説は大好きです。僕はおとうさんにはないしょで、このあいだ、金井君からかりて、偉
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